ドナルド・トランプがLGBTフレンドリーって本当なの?

Republican U.S. presidential candidate Donald Trump delivers a foreign policy speech at the Mayflower Hotel in Washington, US April 27, 2016. REUTERS/Kevin Lamarque TPX IMAGES OF THE DAY

いよいよ目前に迫ってきたアメリカ合衆国大統領選挙(2016年11月8日)。
ドナルド・トランプ氏という特異なキャラクターの候補者の予想外の躍進により、良くも悪くも話題性は満載で注目度の高い選挙となっていますね。

様々な政策や、候補者個々のキャラクターや過去の発言、トラブルなどが報じられています。そのあたりは、他の専門メディアにお任せするとして、もしかしたら次期合衆国大統領になってしまうかもしれないドナルド・トランプ氏とLGBTに関しての情報をまとめました。

様々な情報を整理してみると、選挙結果がどうなるのか、ますます身近に感じることができるようになると思います。

①ドナルド・トランプ氏はLGBTフレンドリーなのか?

選挙戦も終盤の10月30日、トランプ氏は演説会で”コロラド州「トランプを支持するLGBT」”と書かれたレインボー・フラッグを掲げて壇上を歩きました。

この画像は、確かにインパクトは大きいです。
しかし、これを報じたハフィントンポストでは、トランプ氏のLGBTに対する姿勢に疑問符を与えています。
上記リンクの記事によると、疑問符を与えたポイントは

A)2016年7月18日の共和党全国大会で採択された政策綱領
B)2015年6月26日に最高裁が同性婚を合憲とする判決を覆すための判事指名を「真剣に検討する」と言った
C)共和党副大統領候補マイク・ペンス氏の存在

この3点、重要ですので頭に入れておいてください。

2015年6月26日は、全米で同性婚が認められるという記念すべき日でした。

■参考記事
北丸雄二:LGBTは性的倒錯者、犯罪者から同じ市民へ(Letibee LIFE)

これに対し、共和党の大統領候補となったトランプ氏は、同性婚反対の立場を表明しました。
それは、「共和党の最大の支持基盤である南部や中西部の郊外に住む低所得の白人キリスト教徒」の票を得るために彼らの価値観(人工妊娠中絶や同性婚の禁止、マイノリティーへの優遇制度や福祉の廃止、銃所持の権利護持、移民排斥、学校での進化論教育の禁止)を守るという党の意思表示に沿った方向性であると考えられます。

■参考記事
論点:トランプ現象の背景「白人貧困層 怒りの受け皿」町山智浩(毎日新聞)

トランプ氏が、それ以降もLGBTに対する態度を変えなければ何も問題はなかったのですが、2016年2月になって「LGBTの権利を推し進めたい」と発言しました。

■参考記事
米大統領候補者、トランプ氏が「LGBTの権利を向上させていく」と発言(Letibee LIFE)

そして、2016年6月にフロリダ州オーランドのゲイバー「Pulse」で起きた銃乱射事件で49人の死者が出たいたましい事件の後には、トランプ氏は「私はあなたたちのために戦う」とセクシャル・マイノリティに向けてメッセージを発しました。

■参考記事
【フロリダ銃乱射事件】事件機にLGBTの権利向上へ動き強まる トランプ氏も態度軟化「私はあなたたちのために戦う!」(産経ニュース)

ここまでは、LGBT擁護派に宗旨替えしたのか?  と思わさせられてしまう発言なのですが、トランプ氏が党の大統領候補として認められた2016年7月の共和党大会では、「史上最もアンチLGBT的」と称される政策綱領が決定されています。
その共和党大会で、ゲイであることをカミングアウトした投資家ピーター・ティール氏のスピーチは、当事者自ら「LGBTの権利よりも大事なものがある」という意思表明であり、波紋を呼びました。


■参考記事
トランプ応援演説で「ゲイ宣言」の投資家ピーター・ティール、驚愕スピーチの中身(Forbes)

これが、上記のポイント

A)2016年7月18日の共和党全国大会で採択された政策綱領


に関わる部分です。

ところが、その翌月、2016年8月15日になるとトランプ氏は、新たな移民に対しては西側の自由主義的な価値観(LGBTや信仰の多様性への寛容の精神など)を共有できるかの思想チェックする必要があると発言しました。

■参考記事
【米大統領選2016】移民に厳格な思想テストを トランプ氏提案(WEDGE Infinity)

トランプ氏のLGBTに関する一連の発言と、共和党としての政策の乖離は、トランプ氏の本音(実はLGBTフレンドリー)なのか、はたまたピンクウォッシュ(LGBTフレンドリーを利用して悪いイメージを払拭する)のためなのか、なかなか本心が読めないのは事実です。

同性婚を許容していないからピンクウォッシュだ、と考えてしまいがちではありますが、これも調べてみるとなかなか興味深い話が見つかりました。

②同性婚というテーマはとても扱いが難しい

同性婚を認めようという合衆国の世論は2004年から2011年の間に急速に広まったそうです。

■参考記事
めまぐるしく変化した米の同性婚観 積極的なカミングアウト、SNSの台頭等が要因 米紙分析(NewSphere)

同性婚を認めるか否かという問題は、想像以上に合衆国の政治家にとっては慎重に取り扱わなければならない問題だということは、リベラルを標榜する民主党のクリントン候補は2013年、その対抗馬であったバーニー・サンダース氏も2009年までは同性婚を容認していなかったそうです。

■参考記事
誰も、完璧ではありえない。ヒラリーとバーニーはいつから同性婚に賛成しだしたのか?「結婚防衛法」をめぐる発言から見てみるよ(#あたシモ 虹の向こう側)

オバマ大統領ですら就任時は同性婚容認ではなかったと知ると、ドナルド・トランプ氏がもし本心からLGBTフレンドリーな人であるなら、もし大統領になったとして、後に同性婚容認を表明する可能性だってあるかも、と希望的観測すら抱きかねませんが、ことはそう簡単ではないようです。

③次期大統領が連邦最高裁の今後を決める

週刊新潮2016年11月10日号に『民主党の牙城「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ」旋風』という記事が掲載されています。(著者は弁護士の山口真由氏)
この記事がとても興味深い事実を教えてくれています。

週刊新潮 2016年11月10日号 発行:新潮社
週刊新潮 2016年11月10日号 発行:新潮社

一般的に、トランプ氏の支持者は粗野で無教養、差別意識を明らかにする南部の白人男性や、南部や中西部の郊外に住む低所得の白人キリスト教徒だと考えられています。インテリなリベラルが集うハーバード大学とトランプ氏の相性は最悪だとしか思えません。実際、ハーバード大学の共和党支持者(学校全体の13%)で組織された「ハーバード大共和党クラブ」は、2016年8月4日にトランプ氏拒否を表明しました。

■参考記事
ハーバード大共和党クラブ、トランプ氏を拒否-共和主義国家への脅威(Bloomberg)

週刊新潮の記事によると、ハーバード大学の共和党を支持するある男子学生はトランプ氏の俗っぽさを嫌いながらも、「大統領は所詮任期4年の我慢、でも終身制の連邦最高裁判事は40年の我慢になるかもしれない。ならばトランプに我慢する方がマシ」ということを発言したそうです。
これが最初に挙げたポイント

B)2015年6月26日に最高裁が同性婚を合憲とする判決を覆すための判事指名を「真剣に検討する」と言った

に関わってくる部分です。

合衆国の連邦最高裁は、日本の最高裁よりもはるかに大きな影響力を持っています。最高裁の下した判決が法律としての効力を持つそうです。
だから、2015年6月25日に連邦最高裁がオハイオ州を始め同性婚を禁じていた4州の判断を違法だと判じたことで全米で同性婚が認められたわけです。
そして、トランプ氏は

最高裁が同性婚を合憲とする判決を覆すための判事指名を「真剣に検討する」

と言っているのです。

この発言が持つ意味は、とても深いのです。

連邦最高裁の判事は大統領が指名し、その後上院での多数決で決定します。選ばれた判事は基本終身制で、基本、亡くなるまで判事であり続けます。
最高裁判事は9名で、共和党が任命した保守系が5人、民主党が指名したリベラル系が4人というバランスでした。1960年台半ばからずっと50年に渡って、保守系に傾いていたそうです。
しかし、保守系であるケネディ判事は徐々にリベラル側に寄り、LGBTの権利には特に同情的だったので2015年6月25日の同性婚を全米で容認する判決が出ました。
ところが保守系のスカリア判事が亡くなったことで、現在空席が出ている状態です。
リベラル側に寄っているとはいえケネディ判事の基本は保守系で、裁判に寄って保守側の判断を下すこともあります。
もしクリントン氏が大統領になった場合はリベラル側の判事を任命することは確実であり、そうなると9人のうちリベラル系判事が5人となり、連邦最高裁判事のバランスは50年ぶりにリベラル寄りになるわけです。

■参考記事
米連邦最高裁判事の空席はなぜ大ごとなのか?(lifehacker)

リベラル寄り中間派のケネディ判事が80歳、リベラル派のギンズバーグ判事が83歳と高齢であることを考えると、トランプ氏がもし大統領になった場合、4年間の任期中にさらにもう1人最高裁判事を指名する可能性だってあるかもしれません。

つまり、この大統領選挙の結果によって、合衆国の司法判断の方向性を今後数十年に渡って決定づけることになる可能性が大きいのです。

④トランプよりも副大統領に注意が必要

週刊新潮の記事では、さらに熱烈なキリスト教徒の男子学生が
「我々の主張をすべて支持してくれる”大統領”が誕生するチャンスなんだ」
とトランプを支持する理由を語っていると紹介しています。

この男子学生が差す”大統領”とはトランプ氏のことではなく、副大統領候補であるマイク・ペンス氏のことなのです。
これがポイント

C)共和党副大統領候補マイク・ペンス氏の存在


に関わってくる部分です。

このマイク・ペンス氏はガチガチの保守派であり、キリスト教福音派の絶大な支持を集めている人です。インディアナ州知事であった2015年に、LGBTに対する差別を合法化する宗教自由制限法案に調印して大問題になった過去もあります(市民団体やビジネス界からの激しい反発を受け、性的指向やジェンダーアイデンティティの保護を保証する方向に法案を改正した)。

■参考記事
ドナルド・トランプ氏、副大統領候補にインディアナ州知事マイク・ペンス氏を指名か 豊富な政治経験を買う(ハフィントンポスト

マイク・ベンス氏は、ダーウィンの進化論を否定するほどのキリスト教への傾倒ぶり(福音派は聖書の字義通りに創造論を教えている)。同性婚や中絶は一切認めず、銃の所持は容認するという、まさに急進的な保守の代表ともいうべき存在。
週刊新潮の記事のハーバード大学のキリスト教徒学生によると、こんな急進的保守のベンス氏が大統領候補として容認されることはありえないが、
「トランプが大統領になった場合、遅かれ早かれ弾劾されて辞めざるをえなくなるだろう。その時に大統領に昇格するのはマイク・ベンス氏だ。我々は歴史上、最も右寄りの大統領を手にすることになる」
と語ったと言う。

以上、LGBTに関して的を絞っただけでも、実に様々な人が多様な思惑で動いている今回の合衆国大統領選挙。投票日目前になって両候補の支持率はほぼ横並びとなっています。どちらが次期合衆国大統領となるのか、そしてそれが、全米のそして世界のセクシャル・マイノリティに対してどのような影響を及ぼすのか。最後まで目が離せない大統領選挙となりそうです。

About itaru 24 Articles
元・月刊Gーmen編集長。LGBTQI(セクシャル・マイノリティ)に関わる様々な事柄を取材・分析して、誰でも分かりやすい平易な言葉でお伝えしていくことを使命と感じています。

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