HIV陽性だけではドラマにならない時代がやってきた。

「もう、HIV陽性と言うだけではドラマ(物語)を構築できないんだぁ」

今年、2016年7月に開催された第25回レインボー・リール東京(旧:東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で一番印象に残ったのは、これでした。
なぜ、そう思ったのか、下記のメニューでご紹介していきます。

①HIVだけでも物語が構築できた1990年代前半「リビング・エンド」
②HIVを取り巻く2016年の現状を見せる「パリ 05:59」

 

①HIVだけでも物語が構築できた1990年代前半
「リビング・エンド」

2016年の第25回レインボー・リール東京では、インディーズのゲイ監督グレッグ・アラキのレトロ・スペクティブ企画として1993年に公開された「リビング・エンド」のデジタル・リマスター版が上映されました。

HIV陽性の診断に打ちひしがれ、女友達に慰められる繊細な映画評論家のジョン。ホモフォビアの⼀団に囲まれて銃を発砲し、ジョンに助けられるパンクスのルーク。ルークもまたHIV陽性と診断されていた。失うものがないと自暴自棄になった2人は愛の逃避行を始める。

この当時はその実態が分からず、効果的な治療法もない死に直結した病としてHIV/AIDS が捉えられていたために、
・HIV陽性で自暴自棄
・失うもののない俺たち
という図式が成り立ったのです。
そして、そんな主人公2人に共感する観客も少なくなかったので、この作品は公開当時、ゲイ版『テルマ&ルイーズ』として大きな話題になりました。

1993年といえば、トム・ハンクスがエイズを発症したゲイの弁護士を演じた映画「フィラデルフィア」が公開された年でもあります。

現在2016年の感覚から見ると、23年前に公開されたこの2本の映画(物語)は古典かと思うほどの違和感を覚えるでしょう。
この23年間でHIV/AIDSを取り巻く状況が如何に変わったのかを端的に見せてくれたのが、第25回レインボー・リール東京のクロージングに上映された「パリ 05:59」です。

 

②HIVを取り巻く2016年の現状を見せる「パリ 05:59」

※物語に関して激しくネタバレしますので、白紙の状態で映画をご覧になりたい方はこの後を読まれることをお勧めしません。

この作品は映画の中の時間経過と、上映時間が一致するという面白い構造の作品です。
そして上映時間97分のラストシーンは、作品タイトルになっている「05:59」で終わります。
つまり04:22から05:59にかけての物語です。

舞台はパリ、週末金曜深夜04:22のハッテン場は、クラブやバーで遊んだ帰りに男を求める男たちで賑わっています。世界のどこでも共通の、そんなハッテン場の状況の中で惹かれあった2人はその場で激しくお互いを求め合います。18分のハッテン・シーンの後に意気投合した2人は一緒に店外に出て、止めてある自転車まで歩き、さらに自転車をこぎながら誰もいない夜中の街で、ヤリたての2人ならではの浮かれた会話を繰り返します。その会話の中で、タチをした方が「ハッテン場で初めて生で掘った」と言った瞬間、ウケの側の表情が一変します。「僕はHIV陽性なんだ」と。

1993年だったら、ここから「死」をイメージさせる物語が始まるのでしょうが、2016年のパリではそんな物語は構築できません。

この後2人は深夜でもやっている救急病院に向かいます。その道すがらHIV陽性のウケは「僕のウィルス量は検出限界値以下だと先生に伝えて」と強調します。
病院で事情を聞いた医師は、採血をすると密封された袋を持ってきて
「キットです」
と渡してくれます。
その袋の中にはクラッカーとミネラルウォーターと当座の内服薬が入っていました。
クラッカーを食べて内服薬を摂ると、医師は月曜日に検査の結果が分かるので再度来院するように伝えます。その時点で1ヶ月分の内服薬を渡してくれるとのこと。

これは、HIVに感染したかもしれない状況から36時間以内に投薬を始めると効果があるといわれている曝露後予防投薬です。

■参考記事
抗HIVの予防投薬はあり?(HIV感染症(エイズ)の検査・症状100問100答)

「多分、大丈夫でしょう」と医師に告げられ病院を出る2人。

病院に行く前には険悪な雰囲気になりながらも、タチ側の不安に寄り添ったことで2人の間には新たな絆が生まれたことを暗示して、映画は終わります。

HIVへの対処法がシステム化されている現在は、きちんとした知識さえあれば「HIV=死」というイメージは消え去るのだと「パリ 05:59」は呈示してくれます。

HIVと言うだけではドラマ(物語)が構築できなくなったのは、とても大きな希望を持てること。そして、HIVに関する最新の正しい知識を身につけることの重要性も、改めて実感させられる映画でした。

■「パリ 05:59」特別上映会+トークイベント開催

日時:12月1日(木)18:30開場 19:00上映開始
会場:AiSTOPE LOUNGE 新宿2-12-16
入場料:カウンターにてドリンクをオーダー

<MC>
エスムラルダ
<トークゲスト>
山元泰之(東京医科大学医師)
高久陽介(NPO法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス代表理事)

詳細情報はこちら

About itaru 24 Articles
元・月刊Gーmen編集長。LGBTQI(セクシャル・マイノリティ)に関わる様々な事柄を取材・分析して、誰でも分かりやすい平易な言葉でお伝えしていくことを使命と感じています。

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